この記事の執筆者
宮田 翔平
宮田動物病院院長。静岡県沼津市で60年以上続く地域密着の動物病院として、飼い主様に寄り添った丁寧な診療を心がけています。
犬の食べムラや好き嫌いについて相談を受けることはよくあります。
個人的には、犬の食べムラや好き嫌いは、日々の食事の与え方によって人が作ってしまう部分も大きいと考えています。
だからこそ、お家に迎え入れたその日から、まずは飼い主様が出した基本の食事をしっかり食べる習慣を作っていくことが大切です。
そして、この習慣作りは、好き嫌いを減らすためだけのものではありません。
将来の体調変化に気づきやすくし、病気の早期発見につなげるという意味でも大切だと考えています。
今回は、宮田動物病院(静岡県沼津市)で普段飼い主様にお話ししている、犬の食事習慣についての考え方をお話しします。
犬の食べムラや好き嫌いにはさまざまな原因がありますが、毎日の食事の与え方が関係していることも少なくありません。
例えば、いつものフードを食べなかったとします。
そこで、
「食べないから、ささみを乗せてみよう」
「違うフードなら食べるかな」
「ご飯は食べないけれど、おやつなら食べるからあげよう」
ということを繰り返していると、犬も少しずつその食べ方を覚えていきます。
「今のご飯を食べなくても、待っていればもっとおいしいものをトッピングしてもらえる」
という経験につながっていくことがあります。
飼い主様としては、食べムラを作ろうとしているわけではありません。
食べないと心配なので、何とか食べてもらおうとしていることの方が多いと思います。
ただ、食べてもらうことを優先してこのような対応を続けた結果、基本の食事をそのまま食べる習慣が崩れてしまうことがあるということは知っておいていただきたいと思います。

人の場合は、昨日とは違うものを食べたいと思うこともあると思いますし、いろいろな料理を食べること自体を楽しむこともあります。
ただ、犬の食事を人と同じように考えるのは注意が必要です。
物事には順序があるのと同じように、犬の食事にも順序があると考えています。
まずは、飼い主様が出した基本の食事をしっかり食べる習慣を作ること。
その習慣ができてから、おやつやトッピングなどを始めると良いと思います。
おやつやトッピング自体が悪いわけではありませんが、基本の食事を食べない状態で、さらに好みのものを足していくことはあまりおすすめしていません。
まずは毎日の基本の食事をしっかり食べることを大切にして、そのあとでおやつやトッピングを楽しんでもらいたいと思っています。
食事習慣を整えておきたい大きな理由の一つは、体調の変化に気づきやすくするためです。
例えば、毎日同じようにご飯をしっかり食べている犬がいたとします。
その子が急にご飯を残したら、
「いつもは全部食べるのに、今日はおかしい」
と、飼い主様もその異変にすぐ気づかれると思います。
一方で、普段から食べたり食べなかったりして、そのたびにフードやトッピングを変えていると、実際に体調不良で食欲が落ちたときにも、
「今日もいつもの食べムラかな」
「違うものなら食べるかな」
となってしまうことがあります。
そうすると、いつもの食べムラなのか、本当に体調が悪くて食べられないのかが分かりにくくなります。
診察する側にとっても、
「普段から食べたり食べなかったりします」
という犬と、
「今まで毎日しっかり食べていたのに、急に食べなくなりました」
という犬では、「食べない」という情報の意味がかなり違います。
食欲は、その子の体調を知るための大切な情報です。
だからこそ、普段の食事をできるだけ安定させておくことに意味があります。

動物は、自分から「今日は少し気持ち悪い」「昨日から何となく体調が悪い」と話してくれるわけではありません。
だからこそ、飼い主様がその子の普段の状態を把握しておくことがとても大切です。
「うちの子は、いつもこれくらいの量をこのくらいの勢いで食べる」
「お水はだいたいこれくらい飲む」
「便や尿は普段こんな感じ」
「元気なときはこれくらい動く」
こうした、その子なりの「いつも」が分かっているからこそ、
「今日は食べるスピードが遅いな」
「いつもよりお水を飲んでいるな」
「今日はなんとなく元気がないな」
といった小さな変化にも気づくことができます。
食欲もその一つです。
普段から毎日しっかり食べている子であれば、食べなくなったこと自体が大きな変化になります。
反対に、普段から食べたり食べなかったりしていると、その変化が分かりにくくなります。
動物病院で診察できるのは、その子の生活のほんの一部分です。
毎日一緒に生活している飼い主様が気づいた「いつもと違う」という変化は、診察をするうえでもとても大切な情報になります。

離乳後の健康な子犬は、食欲が旺盛で、ご飯をガツガツ食べる子が多いです。
そのため、この時期にあれこれ手を加えず、
「出されたご飯をしっかり食べる」
という本能をそのまま維持していくことが大切だと思っています。
せっかく何でもよく食べている時期に、
「もっと喜ぶかな」
「これを乗せた方がおいしいかな」
と、最初から食事を複雑にする必要はありません。
まずは基本の食事をしっかり食べる。
それが当たり前になってから、おやつやトッピングなどを楽しむ。
当院の「どうぶつの小児科」では、子犬の診察で食事についてかなり詳しくお話ししています。
それは、今ご飯を食べてもらうためだけではありません。
その子がこれから生活していく中で、飼い主様が、
「今日はいつもと違う」
という小さな変化に気づけるようにしておきたいからです。
食事だけではなく、排便や排尿、元気、生活リズムなど、普段の状態をご家庭で把握しておくことが、その子の健康管理につながります。
すでに成犬で食べムラが強い場合には、体重や全身状態、病気の有無なども確認しながら考える必要があります。
急に食べなくなった、体重が減ってきたなどの変化がある場合には、「いつもの食べムラ」と決めつけず、かかりつけの先生に相談してください。
犬の食べムラや好き嫌いの中には、毎日の食事の与え方によって作られていくものがあります。
大切なのは、まず飼い主様が用意した基本の食事をしっかり食べる習慣を作ることです。
おやつやトッピングが悪いわけではありません。
物事には順序があります。
まず基本の食事を食べる。
その習慣ができてから、おやつやトッピングなどを楽しむ。
そして、食事習慣を整えておく意味は、好き嫌いを減らすことだけではありません。
普段からしっかり食べている犬が急に食べなくなれば、
「いつもと違う」
という変化に気づきやすくなります。
食欲は、犬の体調を知るための大切な情報です。
特に食欲が旺盛な子犬の頃から、将来の健康管理まで考えた食事習慣を作っておくことを大切にしてほしいと思います。