この記事の執筆者
宮田 翔平
宮田動物病院院長。静岡県沼津市で60年以上続く地域密着の動物病院として、飼い主様に寄り添った丁寧な診療を心がけています。
健康診断や超音波検査を受けたときに、「胆嚢に胆泥が貯留しています」「胆泥症ですね」と言われたことのある飼い主様もいらっしゃると思います。
また、胆泥症を経過観察している中で、血液検査のALPなど、肝臓や胆嚢に関連する数値が高くなり、「このままで大丈夫なのかな」「前回より悪くなっているのでは」と不安になることもあるかもしれません。
ただ、胆泥症は血液検査の数値や、超音波検査だけで状態を判断するのが難しいと考えています。
数値が悪かったからといって、すぐに手術が必要になるとは限りません。反対に、数値が下がったり超音波検査で良く見えたりしても、それだけで今後も安心とは言い切れません。
宮田動物病院(静岡県沼津市)では、血液検査、画像検査、その子の症状、そしてこれまでの経過を合わせながら胆嚢の状態を評価していきます。
今回は、胆泥症と診断されたときに検査結果をどう考えればよいのか、経過観察では何を見ているのか、そして将来どのような変化があったときに手術を検討するのかについてお話しします。
胆泥症とは、胆嚢の中に胆泥という泥状の物質が貯留している状態です。
そもそも胆嚢は、肝臓で作られた胆汁という液体を一時的にためておく臓器です。
その胆汁は、タイミングが来ると総胆管という細い管を通って十二指腸へと排泄されます。
胆汁には、大きく2つの役割があります。
一つは、脂肪の消化を助けることです。
もう一つは、肝臓で処理された体に不要な物質を、胆汁と一緒に腸へ排泄することです。
つまり胆嚢は、単に「消化を助ける液体をためておく袋」というだけではなく、肝臓で処理されたものを体の外へ排泄していく流れの途中にも関わっています。

超音波検査をしていると、胆泥が見つかる犬は決して珍しくありません。
定期健康診断などでお腹の超音波検査をしたときに、本人には特に症状がなくても、
「胆嚢に少し胆泥がありますね」
と指摘されることもあります。
胆泥の量もさまざまで、少量だけ沈んでいる子もいれば、胆嚢の中のかなりの部分を胆泥が占めている子もいます。
胆泥があるからといって、すべての犬が体調を崩したり、すぐに治療や手術が必要になったりするわけではありません。
実際には、胆泥がありながら大きな問題を起こさず生活している犬の方が多いと考えられます。
一方で、その後に胆泥の状態が変化したり、胆汁の流れが悪くなったりすることもあるため、見つかったあとの経過を確認していくことが大切です。
胆泥症を経過観察している犬で、血液検査でALPが高値を示す場合も多くあります。
例えば、前回のALPが500台ですでに高い状態だったところ、次の検査では700台まで上昇していた。
このような結果を見ると、
「胆嚢が悪くなっているのでは?」
と心配になると思います。
ただし、ALPが高い=胆泥症が悪化している、というシンプルなものではありません。
ALPは、胆嚢や胆管の問題だけで上昇する検査項目ではなく、さまざまな原因で高くなることがあります。
そのため、ALPが高かった場合には、ほかの血液検査の項目も確認します。
また、これまで胆嚢を超音波で詳しく見ていなければ、
「一度、次の機会に超音波検査もしてみましょう」
とお話しすることもあります。
胆嚢だけに限らず、病気を評価するときには、一つの血液検査の項目だけで判断するのではなく、ほかの血液検査や超音波検査、必要に応じてレントゲン検査など、複数の情報を合わせて考えることが大切です。
胆嚢について見る場合には、
などを合わせて評価します。
ALPが500から700に上がったということ自体も大切な情報です。
ただ、その数字一つだけで今後の治療方針を決めるわけではありません。
胆泥症の経過を見るうえで、超音波検査は非常に重要です。
ただ、胆嚢は立体的な臓器なので、一つの場所から見た一つの断面だけで、胆嚢全体を評価することはできません。
そのため実際の超音波検査では、プローブを動かしながら角度や見る位置を変えて、胆嚢をいろいろな方向から確認します。
ある断面では胆泥が少なく見えても、別の断面では多く見えることがあります。反対に、一部分だけを見て胆泥が多いように感じても、それだけで胆嚢全体の状態を判断することはできません。
当院では、一か所だけを見るのではなく、複数の場所・複数の断面から胆嚢を確認することを大切にしています。
さらに、今回の検査だけで判断するのではなく、以前の超音波画像とも比較しながら、
といった点を見ていきます。
つまり、超音波検査でも大切なのは、一枚の画像だけではなく、胆嚢全体をいろいろな角度から確認し、それまでの経過と合わせて評価することです。
胆嚢内の内容物が多くみられる例
胆汁と胆泥が分かれてみられる例
胆嚢内の内容物が多くみられる例

胆泥症を経過観察している飼い主様に、一番お伝えしたいことの一つです。
血液検査の数値が前回より上がれば、不安になると思います。
反対に、次の検査でALPが下がれば、
「良くなった」
「もう安心なのかな」
と思うかもしれません。
数値が下がったこと自体は良いことです。
ただ、当院では、数値が下がったからといって胆嚢の経過観察を終わらせましょう
ということはありません。
超音波検査も同じです。
今回の検査で前回より良く見えたとしても、それだけで今後の確認が必要なくなるわけではありません。
大切なのは、
検査結果が良くても油断しすぎず、悪くても一つの結果として受け止めるだけにして、過剰に反応しすぎないこと
と飼い主様にはお話ししています。
当院では、
「今回は良くなっているかな」
ということだけを目的に定期検査をしているわけではなく、
むしろ、
「前回と比べて悪化しているところはないか」
を確認することを大切にしています。
何か変化が起きたときに、次の対応をできるだけ早く考えられるようにするためです。
胆嚢の中に液体の胆汁と胆泥がある場合、泥状の胆泥は重力方向に沈みます。
超音波検査では、体勢やプローブの当て方によって、胆泥が動く様子を確認できることもあります。
一方で、胆嚢の内容物の粘り気が強くなってくると、以前より動きが少なくなることがあります。
さらに変化が進むと、胆嚢粘液嚢腫というゼリー状に近づいてくることもあります。
この場合も、一回の検査だけで判断するのではなく、
を合わせながら見ていきます。
胆泥が見つかったからといって、積極的な治療が必要な胆嚢粘液嚢腫になることを過剰に心配する必要はありません。
ただし、今後どのような変化が起こる可能性があるのかをかかりつけの先生と話し合い、知っておくことは大切です。
胆嚢にたまった胆汁は、必要なタイミングで総胆管を通り、十二指腸へ排泄されます。
この胆汁の流れが悪くなってくると、胆嚢だけではなく、肝臓にも影響が及ぶことがあります。
前述したように、胆汁には脂肪の消化・吸収を助ける役割だけではなく、肝臓で処理された不要な物質を体の外へ排泄する役割もあります。
そのため、胆汁がうまく流れなくなることは、単に消化だけの問題ではありません。
状態によっては、
といった変化が起こることがあります。
さらに状態が進行すると、胆嚢が破裂することもあります。
こうした大きなトラブルが起こる前に変化を拾うためにも、血液検査や超音波検査を定期的に行い、これまでの経過と比較していくことが大切です。
胆泥症が見つかった子の飼い主様から、
「何か治療薬はありますか?」
と聞かれることがあります。
そのようなとき、当院では、胆泥そのものを劇的に改善させるような内科治療があるわけではないということをまずお話ししています。
一方で、
「何かしてあげたい」
「このまま経過を見るだけでは少し不安」
と感じる飼い主様もいらっしゃいます。
そのような場合に、ご提案することがあるのが低脂肪食です。
先ほどお話ししたように、胆汁には脂肪の消化・吸収を助ける役割があります。
脂肪を摂取すると、その消化のために胆汁が必要になり、胆嚢から胆汁が排泄されます。
そのため、胆嚢に負担をかけすぎないという考え方から、胆嚢の病気では低脂肪食が推奨されるケースがあります。
当院でも、ほかに食事上の制限がなく、食事を自由に選べる子であれば、ALPが高くなる前の段階でも、胆嚢のことが気になる飼い主様に低脂肪食をご提案することがあります。
ただし、
低脂肪食を食べれば胆泥がなくなる
という意味ではありません。
胆泥を直接治すための食事というより、胆嚢への負担をできるだけ減らすためにできることの一つとして考えています。
胆泥症では、ウルソデオキシコール酸という薬を処方されることもあります。
胆汁の流れや性状の改善を期待して使用される薬です。
個人的には、以前は胆泥が見つかった犬にかなり積極的に使用していました。
ただ、長く診療を続けていく中で、現在は積極的には使用していません。
ウルソデオキシコール酸を飲んだことで良くなった症例がなかった、という意味ではありませんが、
薬を続けることで胆泥そのものが明らかに改善している
と実感できる症例ばかりではありませんでした。
そのため、以前と少し考え方が変わっています。
ほかの病院でウルソデオキシコール酸を処方されている場合には、その先生なりの治療方針や処方理由があります。
現在飲んでいる場合には、自己判断で中止せず、処方している先生と相談してください。
胆泥症が進行し、胆嚢粘液嚢腫に近い状態になった場合や、胆嚢のトラブルに関連すると考えられる症状が出てきた場合などには、手術を検討することがあります。
ただし、胆泥症と診断されたからといって、将来必ず手術が必要になるわけではありません。
実際には、胆泥がありながら大きな問題を起こさず、そのまま生活している犬の方が多いと言われています。
そのため、胆泥が見つかった時点で、
「この子はいずれ手術になる」
と考える必要はありません。
その代わり、
「どのような変化が起きたら手術を検討するのか」
を、飼い主様にも少しずつ知っておいていただくことが大切だと考えています。
当院で手術について具体的に相談することがあるのは、例えば、
といった変化がみられる場合です。
例えば、これまでほとんど吐かなかった犬が、最近になって嘔吐する回数が増えてきた場合には、胆嚢との関連も考えます。
ただし、嘔吐の原因は胆嚢以外にもさまざまありますので、胆泥があるという理由だけですべての症状を胆嚢のせいにするわけではありません。
ほかの原因についても確認したうえで判断します。
また、血液検査に大きな異常が出ていなくても、超音波検査で胆嚢が徐々に拡張しているなど、画像上の変化から手術を検討することもあります。
大切なのは、検査のたびに「手術する・しない」を決めることではありません。
定期的に経過を見ながら、
「今はどのくらいの状態なのか」
「前回から何か変わっているのか」
「この先どのような変化が起きたら手術を考えるのか」
を、飼い主様と獣医師が一緒に確認していくことだと思っています。
その意味でも、胆泥症で定期的に血液検査や超音波検査を行うのは、単に数値をチェックするためだけではありません。
もし将来治療方針を変える必要が出てきたときに、そのタイミングをできるだけ見逃さないために経過を積み重ねている
という意味があります。
胆嚢の手術についても、胆泥があるという理由だけで予防的に行うものではありません。
避妊・去勢手術のように、将来の病気を予防する目的で広く行われる手術とは性格が異なります。
だからこそ、今すぐ手術が必要ではない段階から、必要になった場合にはどのような選択肢があるのかを知り、かかりつけの先生と相談しながら経過を見ていくことが大切です。

犬の胆泥症は、健康診断などでも比較的よく見つかります。
胆泥があるからといって、すぐに大きな問題が起きるわけではありません。
また、ALPが上がったからといって、それだけで胆嚢が悪化したとも言い切れません。
反対に、ALPが下がったり、超音波検査で良く見えたりしたからといって、その後の経過観察が必要なくなるわけでもありません。
当院で大切にしているのは、
一つの血液検査の数値だけで判断せず、超音波検査だけにも頼りすぎず、その子の症状とこれまでの経過を合わせて見ていくこと
です。
胆泥症について必要以上に怖がる必要はありません。
ただ、「経過観察だから何も気にしなくてよい」ということでもありません。
今はどのような状態なのか。
今後どのような変化に注意するのか。
どのような状態になったら手術を考えるのか。
そうしたことを少しずつ理解しながら、定期的な検査を続けていくことが大切だと考えています。