この記事の執筆者
宮田 翔平
宮田動物病院院長。静岡県沼津市で60年以上続く地域密着の動物病院として、飼い主様に寄り添った丁寧な診療を心がけています。
歯周病による歯肉の腫れや食欲低下を主訴に来院されました。
これまで他院で歯周病を指摘されていましたが、「年齢を考えると全身麻酔は難しい」と説明を受け、抗菌薬による治療を継続されていました。
しかし、症状は改善と再発を繰り返し、次第に食欲も低下してきたため、当院を受診されました。
また、数週間前から膿性鼻汁がみられ、数年前から慢性的な咳や逆くしゃみも認められていました。
初診時の体重は8.9kgでした。
食欲低下の影響もあり、ボディコンディションスコア(BCS)は2/5とかなり痩せており、脱水も認められました。
全身状態も低下していました。
口腔内には重度の歯肉炎、歯石の大量付着、歯の動揺、強い口臭を認めました。
さらに左側の鼻からは膿性鼻汁を認め、口腔鼻腔瘻(歯周病などにより顎の骨が溶け、口と鼻がつながってしまう状態)が強く疑われました。
食欲低下の原因としては、重度歯周病による慢性的な痛みや慢性鼻炎の影響が考えられました。
症例の口腔内写真
歯科治療が必要な状態でしたが、安全に全身麻酔を行うため、まずは全身状態の改善を優先しました。
脱水や栄養状態の改善を目的とした内科治療を行い、状態の改善を確認したうえで歯科処置を行う方針としました。
約10日間の内科治療を行った結果、食欲が改善し、ご飯をしっかり食べられるようになりました。
体重は8.9kgから9.8kgまで増加し、脱水も改善しました。
その後の術前検査(麻酔前検査)でも大きな異常は認められなかったため、全身麻酔下での歯科処置を計画しました。
歯科用レントゲン検査やCT検査では、ほぼすべての歯に歯周病による骨吸収が認められました。
画像検査によって炎症や骨吸収の程度を詳しく評価し、痛みや炎症が特に強い部位を優先して治療する計画を立てました。
本来であれば、ほぼすべての歯で抜歯が必要と考えられる状態でした。
しかし、一度にすべての処置を行うことは体への負担も大きくなるため、安全性を最優先に治療計画を立てました。
高齢であることや麻酔時間をできるだけ短くしたいことを考慮し、今回は特に炎症が強く、痛みの原因となっている部位を中心に処置を行いました。
処置中も全身状態や麻酔深度を慎重に確認しながら進め、一つの処置が終わるごとに追加の処置を安全に行えるかどうかを評価しました。
すべての歯を一度に処置するのではなく、安全性を最優先に考えながら治療を進めました。
処置後は食欲が大きく改善し、膿性鼻汁や口臭も消失しました。
体重は8.9kgから10.1kgまで回復し、表情や活動性にも明らかな改善がみられました。
以前のように食事を楽しめるようになり、ご家族にも大変喜んでいただきました。
高齢のわんちゃんでは、
「もう年だから仕方ない」
「麻酔が怖いから何もできない」
と思われているケースが少なくありません。
しかし実際には、歯周病による慢性的な痛みが原因で食欲が落ち、体重が減少し、元気がなくなっていることもあります。
大切なのは、「高齢だから」と年齢だけで判断するのではなく、その子の全身状態や病気の進行度をしっかり評価したうえで治療方針を考えることです。
年齢だけで諦めるのではなく、治療によるメリットと麻酔のリスクを比較しながら判断することが重要だと考えています。

高齢だから。
持病があるから。
他院で難しいと言われたから。
そのような理由で治療を諦めてしまう前に、一度ご相談ください。
すべての症例で同じ治療ができるわけではありませんが、その子の状態に合わせて最善の方法を一緒に考えていきます。
「年齢のせいだから仕方ない」と思っていた症状の中にも、適切な治療によって改善できる場合があります。